新刊のおたより(2月)


すばらしい場所って?
 ルーカスはレポートで満点を取りましたが、ちょっと気が重い日でした。お父さんのオンボロ車のせいでもあり、お母さんが忙しがって話を聞いてくれません。その晩不思議な光がルーカスを何もかも完璧なすばらしいところに導いてれました。シミひとつない完璧なところです。ステージに立ってレポートを報告しました。ところが不意に床にジュースをこぼしてシミをつけた少年がいました。非難ごうごうです。でもルーカスは思います。シミひとつない何もかも完璧ってどういうことでしょうか。ルーカスは踵を返して家に帰りました。ボロで貧しい家だけれど両親もおじいちゃんもルーカスを褒めてくれました。とってもすばらしい場所ってどこでしょう。
 私たちは今、欲望の渦巻く毎日で、これでもかこれでもかという生活を送りがちです。これでもかこれでもかと子どもたちを競争に追い立てがちです。それが幸せだと。本当に幸せなのでしょうか。この絵本は大人が読むべき本かもしれません。こどもと一緒に本当のすばらしいところはどこにあるのかちょっと考えてみたいと思います。ルーカスを導いてくれた光とは?そんなことも考えてみたいと思います。
 作者は「おばあちゃんとバスに乗って」「マイロのスケッチブック」で貧しいけれどしっかり生きている人、子どもたちが出てくるとても印象深い絵本を出しています。
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「とってもすばらしい場所」マット・デ・ラ・ベーニヤ 文
 パオラ・エスコパル絵 さくまゆみこ 訳
 岩波書店刊 本体1800円

それはアマゾンでおきたこと
 フレッドの乗った小型飛行機は今、アマゾンの上空を飛んでいた。飛行機にはすぐ後ろに一人の少女と幼い弟とその後ろには金髪を腰まで垂らした青白い顔の少女がいた。
やがて闇夜だ。飛行機は変な音を立て始めた。落ちる!そして、火に包まれると思いきや雨が、激しい雨が降ってきた。こんな風に飛行機は墜落、子どもたちはアマゾンのジャングルの中に取り残された。そう。遭難したのだ。この物語は前半は取り残された子どもたちが必死で生きていこうとする話。後半はジャングルで出会った男との話だ。男もまた、過去に遭難して一人で生きてきたのだ。子どもたちの冒険譚、謎の男との話、都会の子どもが生きていくために耐えなければならないことがこれでもかこれでもかとおきる。好嫌いなんかいっていられない、なんでも食べなくてはならない。でも男に出会った子どもたちはただの感情だけでなく、生き延びていくための知恵と思いを学んでいく。久しぶりにドキドキハラハラと冒険の話を読んだ。ただそれだけでなく、人間の尊厳も考えさせられた。中学生から、現代の日本の子どもたちに感想を聞きたい。訳もたっぷりの絵もいい。
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「探検家」キャサリン・ランデル 越智典子 訳
ゴブリン書房 本体1700円

これな〜んだ?
 いろいろのたべものが描かれている。たべものの持っている色で区別されている。例えば最初白というか灰色「しろいたべものなーんだ?」ページをめくると「だいふく」「たまご」「にくまん」しろい食べものがならぶ。次は「黄色」めくると「バナナ」「レモン」そんな風に進む。そして、最後のページ、最初に戻って「しろい」「おにぎり」そういえば影絵のような色や形を使ってな〜んだという絵本があってひところ読み聞かせなどに使われた。この絵本の優れたところは色、あくまでたべものの本質が表現されていて、出てくるたべものに近い色だ。画家は暮れに出版された「おせち」で話題になった。この本のたべものの方が素朴で私は好きだ。
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「いろいろたべもの」作・絵 内田有美 偕成社刊
 本体1300円

僕の名前はタンゲ
 僕の名前はタンゲ、今の人にはわからないけれど、映画などで人気があった丹下左膳(たんげさぜん)。時代劇で活躍、片目のつぶれた剣の名人、その名前にあやかった片目が潰れた猫がぬうっと入ってきて、当たり前のように私の膝に乗っかった。そのまま猫は家の猫になりました。お父さんもお母さんも何も言わないで、お父さんの命名でタンゲくんという名前になり、家の猫になった。猫はおとなしい猫ではありません。時々ふっといなくなり何日も帰ってきません。でもいつの間にかまた、帰ってきて私の家の猫になります。女の子を通してタンゲくんと名付けた猫への愛情が読むものの心を動かす。決して可愛らしくはない、何だかペットとしては不十分、でも猫を通して生き物のへの愛情が微笑ましく胸に迫る。今日は2月22日、語呂合わせだけれどニャンニャンの日。昨夜はラジオで特集を組んでいた。猫とはそれとない距離が置けて私は好きだ(犬もいいけれど、いつも飼い主のことを見つめているので、ちょつとくたびれる)最近、野良猫防止が行き届いて、野生的な猫、だけでない犬も少なくなった。家猫、暖房の効いた部屋で過ごしている犬猫が多い。この本の表紙を見れば猫だけでなく、虫をついばんでいる鳥、バッタやハチ、アリなども描かれていて片目でギョロリと現れたタンゲくんをめぐって失くしてはならないものを考える。
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「タンゲくん」片山健 福音館書店刊 本体1200円+税

しずかって?
 なんだかいつも日本?は躁状態かしら。でもかと思うとマイナスのニュースばかりで、うつ状態。頑張っている、頑張っていこうで巷は満ち溢れている。しずかという言葉で思い出すのは雪国の冬だ。雪は音を吸収するので、雪が降っているときは音一つしないでしずかだ。時には雪の重みで電気がこない。ともかくしんしんと雪が降り積もる。そんな夜は早く寝るにかぎる。キツネの子どもはお母さんが出かけて一人でお留守番。そこへ来たのは「しずかなおきゃくさま」はじめは怖かったけれど、話したり踊ったりしているうちに仲良しになる。踊るのに音楽はいらない。自分の心臓の鼓動に合わせて踊る。そうなんだ、自分の心臓の鼓動に合わせて話したり体を動かせばそれが一番。心の声、静かに耳をすませてみよう。
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「しずかなおきゃくさま」文 ヌリア・フィゲラス
絵アンナ・フォン 訳 宇野和美
光村教育図書 本体1500円

ちょっとはいくはどうですか
 朝です。どうぶつえんは開園の準備です。今日は良いお天気、園長さんは園の見回りです。まずナマケモノ、のんびりとしています。園長さんは俳句を作りました。そうです。園長さんには俳句の趣味があります。次はフラミンゴ、突然踊り出したではありませんか。園長さんはやっぱり俳句を一句。そんな風にして、園を見回りながら次々に俳句を作りました。ところがきょうにのって、寒いどうぶつのところへ来たものですから春は冬に逆戻り。これはまずい、ゴリラのくしゃみで冬雲を吹きとばしてああよかった。雪が止んで春の動物園になりました。「さあこれで いつものはるのどうぶつえん」私も一句「はるがきた いこうよいこう どうぶつえん」
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「はいくどうぶつえん」こどものとも3月号
おおぎやなぎちか文 サトウマサノリ 絵
福音館書店刊 本体418円

冬が来た、君は詩人だね
 もうじき冬が来ます。ノネズミたちは冬のためにせっせと蓄えのため働きます。でも一匹だけぼっとして何もしないノネズミがいます。仲間がどうして働かないのと聞くと、僕はお日様の光を集めているのさと答えます。色を集めているとか、長い冬のために言葉を集めているとか、フレデリックはいろいろ答えます。やがて長い冬がやって来た。仲間たちはフレデリックのしてきたことが理解できた。だって寒い長い冬、「目をつむってごらん」・・・「君は詩人だね」フレデリックは赤くなってお辞儀をした。「そういうわけさ」せこせこしないで時にはフレデリックのようになろうよ。きっとみんな詩人だということに気がつくよ。もう紅梅が咲き始めているとのこと。出かけよう。鼻をヒクヒクさせて。胸いっぱい深呼吸をしよう。春はすぐそこ。
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「フレデリック」ちょっとかわったのネズミのはなし
レオ=レオニ 訳谷川俊太郎 好学社刊 本体1456円+税

今年は大雪
 クマの子が降ってくる雪を見上げています。月曜日、ネズミの子がどれくらい積もるのかなと言っています。火曜日はウサギの子がたくさん降ってきたと言います。水曜日はキツネの子、木曜日はオオカミの子、金曜日は鹿の子、土曜日はクマの子、雪は大暴れです。どんなにつもったかなという言葉の繰り返しに動物の子どもたちの元気な姿が跳ねて踊ります。そして、雪はどんどん積もります。でも、春がやってきた。あれ!またゆきが降り始めてきました。今年は大雪、動物たちはみんなひっそりと雪に埋もれています。そろそろお腹もすいてきた。春よ来い!言葉のリズムと動物たちの表情が楽しい。
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「ゆきがどっさりつもったよ」クリスティン・シュローダー文
サラ・ジャコピー絵 増子久美 訳 化学同人刊 本体2000円

ゆきだ!ゆきだ!ゆきだるまつくろう

 立春も過ぎたというのに大雪です。ただ私の子どもの頃はこんな雪は特別ではありませんでした。お正月が過ぎるとドカ雪が降りました。すると大人は慌てて屋根の雪下ろしをしました。普通の木造の家、雪の重みでミシッ、ミシッといいます。我が家も古かったので、8畳と6畳が繋がっていて、雪の重みで戸(ふすま)が空きづらくなります。すると父や雪下ろしを頼んでいた人総出で母屋の雪下ろしです。子どもは手伝いはしません。いつ雪が滑り落ちてくるかわかりませんから危険だからで、ただ手伝いはしませんでしたが、みんなで雪
遊びをしました。この絵本のように学校の校庭で大きな滑り台を作ったりはもちろん、ゆきだるまも。雪合戦をしたり雪に埋もれてたくさん遊びました。先生も一緒です。危険だなんて文句を言う大人はいない、大人は生活で一生懸命で、文句を言う余裕もありません。ただ学校や家で危険に対する教育は受けました。この本は、はからずも雪玉を大きくして、大きな雪だるまを作ったお話です。韓国の絵本です。とても楽しそうです。
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「ゆきだま」キム・ギジョンぶん ムン・ジョンフンえ
 おおたけ きよみ やく ほるぷ出版刊 本体1600円

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