新刊のおたより(11月)


だれでも詩人
 小さな街、たったひとつの郵便局、局員はふたりきり。ひとりはガイトー、もう一人はトリノスといいました。ガイトーは中の窓口に、トリノスは配達員です。消印を押す時はふたりで押します。黙って、静かです。トリノスが突然話します。灯台守りの爺さんにあったら、自分はひとりぼっちなので手紙をもらったことがないという。ガイトの言い出したことは自分が書いてみようかということだった。そして、できあがった手紙を爺さんに届けるとじいさんはこれは詩というものだという。ガイトーとトリノスのあいだがひとつの物語になって手紙、詩がその間にはさまっている。ガイトーは郵便局をやめた。春になった。ガイトーはトリノスに配達をしなかった秘密を話して去っていった。「ゆうびんや」という手紙を残して。てがみは人の心を守ってくれる。そして、詩はその人の心をほぐしてくれる。牡丹の画が柔らかく心を包んでくれる。そうだ、今は亡い友だちに手紙を書こう。いつかきっと会いにいくから待っていてほしいと。
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「しじんのゆうびんやさん」斉藤倫 牡丹靖佳・画
 偕成社刊 本体1600円+税

ゾフィアとトムの物語
 イギリスの作家で日本では続けて出版されている新鋭の日本発表3冊目の作品です。二人の少年、少女ゾフィアとトムは共に11歳です。ゾフィアはともかく活動的な子、いつも怒りで体を震わせています。海のフィジーに登頂?の旗をたてることを課題にしています。父親と住んでいて、母親は死んでしまっています。一方トムは内向的な子どもで暗闇が恐怖(原因は後半になって書かれています。)母親と住んでいます。もの作りがとくい。とくに折り紙は天才肌です。(作中鶴をおる描写があります。)まるっきり他人だった二人は親が結婚することになり一緒に住むことになりますが、受け入れることができません。でも自分を見つめ直すことで、家族になることを受け入れていきます。そして、赤ちゃんの誕生、ちいさく生まれて死にかけている赤ちゃんの誕生とボートを作ることが二人を結びつけていきます。ゾフィアの動とトムの静がとても良く書かれていて、作品にひきこまれていき、読み終わるとおもわず大きく息をつきました。作家は他の作品でも一貫して家族のあり方を通して、希望をもとめ掴んでいく心を描いています。ぼくのなかに、私のなかにある光です。
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「ぼくのなかにある光」カチャ・ベーレン 作 原田勝 訳
 岩波書店刊 本体2200円+税

ソフィのクリスマス
 小さな少女のパパはとてもいそがしくてクリスマスもなにもありません。ソフィは一人で外にでました。雪ははげしい吹雪になりました。吹雪のなかに現れたのは一頭のヘラジカです。すすめられるまま背中にのります。背中は大きくて暖かです。どんどんすすんでいくと森のなかに、みずうみのそばに、小さな木が一本立っています。吹きすさぶ風にいまにもたおれそうです。ソフィーはふいにいいことを思いつきます。なんだろうか?とても美しい冬の情景がいっぱい、ソフィーをはじめとして森の動物たちがおもいおもいのものを持って木を飾ります。それだけでなく、パパまで現れる。最後の場面の空いっぱいのオーロラが輝く場面は息をのむほどダイナミックで輝いています。そして、地上には小さなもみの木、今夜はクリスマスです。
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「ゆきのもりのおくりもの」リンデ・ファース 文・絵
 西村由美 訳 岩波書店 刊 本体1900円+税

あなたのきょうだいにマックスがいたら
 ぼくは10歳で弟のマックスは5歳、後16日でマックスは学校にいく。マックスは生まれてから一度も言葉をしゃべらない。機嫌が悪くなるとぎゅっと手をにぎりガシガシと噛む。フンフンが悲
鳴にかわって、こうなったら誰もがお手あげだ。パパはコンピュータの仕事をしていて、ママは画家だった。アトリエは屋根裏部屋にある。マックスが生まれる前にはママは朝になると屋根裏部屋にいって絵を描いてパパは寝る前にたくさんのお話を読んでくれた。宇宙飛行士の話や謎をとくタンタンの話がぼくは大好きだった。マックスが生まれる前のことだよ。マックスが生まれてからなにもかも変わってしまった。仲の悪いいじめっこ同級生にマックスが弟と言われた時、思わず違う!といってしまった。それでもなんとかみんなでやっていた。でも、ママは突然病気で死んでしまった。ママが死んでしまって、悲痛の底に放り出された僕、マックス、パパ、家族が宇宙のなかにさまよう。でもおばあちゃんや隣の画家のおじいさん、友だちがおのおの手を差し伸べる。そして、家族の歴史を木をつかって表現すること、マックスがセンダックの「かいじゅうたちのいるところ」を劇にして表現することでバラバラになった家族が宇宙のこどもとして再生していくこと。
「もし愛するひとが住んでいなかったら、宇宙はそれほど意味のあるところではない」ホーキンズの言葉で最後がしめられている。作者はカーネギー賞をもらった「わたしの名前はオクトーバ」を
はじめとして、どの作品でも家族の再生を描いているが、他の登場する人が実にいきいきと心を揺さぶる。人は決して一人で宇宙にただよっているわけではない。親友も、先生も、マックスを受け入れて励ましてくれる人たちが存在するということを子どもたちに伝えたいと思う。
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「ぼくたちは宇宙のなかで」カチャ・ベーレン作
 こだまともこ訳 評論社刊 本体1600円+税10%

サンタさんとクリスマス
 今日はクリスマス、サンタさんは大忙しです。世界中にサンタさんを待っている子どもがたくさんいるのです。子どもだけでなくおとなだって。でも考えてみてください。サンタさんにはプレゼントは届かないのです。だれも持ってきてくれません。そのことに気がついたこびとたちが相談しました。私たちがサンタさんにプレゼントをして、クリスマスをお祝いしよう!そして・・・
 昔、会留府にもこびとたちと同じ思いをするこどもがいました。枕元にサンタさんごくろうさま、ありがとうとかいてお菓子を置きました。ビールも置いたのだけれど飲酒運転?だよと言われてみんなで笑いました。作者は今年アンデルセン賞をもらった画家です。吃音のこどもとおとうさんとの会話のお話の絵本は心がやさしく元気がでました。とても美しい本です。戦争があって、不景気で人の心がともすればささくれだってしまうこの頃です。でもいいことはかならずおこる。みんなに!みんなが贈る人になれば!今年のクリスマス本の最高作。
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「はじめてのクリスマス」 マック・バーネット文
 シドニー・スミス絵 なかがわちひろ 訳
 偕成社刊 本体1600円+税

いったい これなーんだ
 作者といえば店ではまんじろうさんが人気の本、とぼけた作風にニヤリとしてしまいます。この絵本も表情豊かなねこが6匹います。数の本なので、なにもないところに「これなんだ?」「ぼおーん」ぞう1とう。次は「りんごが2こ?」「これはね りんご1こ と くま1とう」もちろん形がよく似ている。こんなふうに10までの数の絵本です。それだけでなく造形的にもとても美しい。
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「ねこねこねこ
  ねこねこねこ」
北村人 アノニマ・スタジオ刊 本体1500円

友だちはロボット
 とてもテンポの速い現代的な物語だ。初めはアメリカの作品だとおもったくらい。主人公は6年生の男の子。それにもう一人?ロボット。ジョシュは強度の心配性で学校になかなかいかれない。心配しだすと食べたものを全部吐いてしまう。それなのにママとパパの仕事の都合で転校しなければならなくなった。やっと登校した学校で友達として与えられたのはロボットだった。パパはテレビに出ているコメディアン、ママは新保健所所長。登校拒否できない。この心配性が最悪の事件を引き起こしたのは、演劇の公演だった。ロボット、ちょっと日本ではありえないことかもしれないけれどこの本を読んでいるうちに案外学校へ行かれない子どもの有効な手立てかもしれない。ロボットといってもアバター家にはそのロボットの背景の子どもがいる。その子もなんらかのハンディがあって学校に通えない。ロボットと仲良くなって、自分の悩みや本音を話せるようになっていく。そこにはもちろん教師が寄り添っている。まわりくどいようだけれど教師の力とロボットを介在して、ジョシュは強度の心配性を克服していく。この物語はロボットなどについての(ロボットというより機械に対して)偏見のあった私の見方を一度考えることができた。ただ、作者はコメディアンとして活躍しているからか、文体は賑やかで、ひどく現代的なので、読み始めはちょっと苦労した。でも、現代の子どもならへっちゃらかもしれない。分身ロボット、おもしろかったし有効だ。最後に「不安をしずめるための呼吸法」がかかれていてこれも一考!
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「ぼくとロボット型フレンド」サイモン・バッカム 千葉茂樹 訳
 あすなろ書房刊 本体1800円+税

おやすみの本
 ねんねの本、なかなか子どもは寝ないで寝かしつけに手こずっている親も多いと思います。
本を読んでやろうものなら、もう1冊、もう1冊ときりがなくいわれます。こっちは明日仕事なのになぁ!とおもってちょっとイライラ、寝ない理由は子どもの運動不足が多いようです。そんな時は抱っこして歩きまわったら?ねむーい、ねむーいあくびをしています。こうなるとじきにねむるでしょう。いぬもねこもくつもみんなおおあくび。おおきいあくび ふわあ、とてもシンプルな絵本です。あくびをしたみんなはねんね ねんね おやすみね そのりくりかえしです。みんなねましたよ。
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「ねんね ねんね おやすみね」こどものとも0・1・2  12月号
 高橋潤子 ぶん  北谷しげひさ え 福音館書店刊 本体418円+税10%

サンタっているのかな?いないのかな?
 11月の声を聞くとクリスマスが話題になります。子どもにサンタクロースっているの?と聞かれたことがありますか。学校に上がる頃になると一度は子どもも考えるようになって質問されて困ったことがありませんか。この本は経済学者の著者が自分の子どもに書いた本だそうです。おとう
さんとおふろに入りながらの会話が描かれています。おとうさんは”いるよ”といいます。おとうさんの答えは明快です。🎅いるよ サンタクロースはね こどもをよろこばせるのがたのしみなのさ だってこどもがしあわせなときはみんながしあわせなときだもの、P27より。ちゃんとこどもたちにいいましょう。サンタクロースはいるよ!
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「サンタクロースって ほんとにいるの?」
 てるおかいつこ 文 すぎうらはんも 絵
福音館書店刊 本体1000円+税10%

こそあど森の新刊
 こそあどもりの新刊がでました。こそあどってなーにと言っている人、この森でなければその森でもない、あの森でもなければどの森でもない、というわけでこそあど森の物語です。森が生まれて30周年の記念出版、今回はスキッバー、トマトさん、ポットさん、スミレさん、ギーコさん、トワイエさん、シナモンさん、7人のないしょの話が書かれています。たとえばスキッバーはどうして雨が降るかがわかった日のことが書いてあります。もちろん著者の絵がいっぱい、ところどころにそれはカラーでとってもきれいです。こそあどはちょっと不思議、そして物語全体ほんわかした感じです。私はやっぱり本を読んだり化石や星をみて空想するのが好きなスキッバーに興味があります。さあ、みんなの秘密の物語を読んでみましょう。
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「こそあど森のひみつの場所」岡田淳 
  理論社刊 本体1500円

おまたせしましたシノダ!の新刊
 しばらくぶりです。あいかわらず信田家のユイたち3きょうだいは元気です。きょうだいだけでなくいつものトラブルメーカーの夜叉丸おじさんも。夜叉丸おじさんはガールフレンドのミツバちゃんにプロホーズしたいのだけれど、ミツバちゃんの親戚から反対されているらしい。そこで3きょうだいの大活躍、「初音の鼓」の由緒正しいミツバちゃんの一族、人間の親戚になるなんてとんでもないといいます。さあ夜叉丸おじさんはミツバちゃんと結婚できるでしょうか。この話は単なるちょっとした結婚話ではありません。今回も作者は「初音の鼓」をめぐってのあちこちに書かれている、伝えられている話を物語のなかに十分にもりこんでいます。鼓なんてあまり知らない人が多いとおもいますが歌舞伎や人形浄瑠璃で演じられていたり、落語のタネにもなっています。とはいってもそんなかたぐるしい物語でなく、ママが信田のキツネという3きょうだいのいつもの元気な活躍物語です。ユーモアいっぱいのお話を十分に楽しんでください。
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「シノダ!初音一族のキツネたち」富安陽子 大庭賢哉え
 偕成社刊 本体1400円+税

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